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南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点

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最終更新日:2022年11月10日

南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点
―産業の持続的発展に向けて―

2022年11月

サトウキビコンサルタント 杉本 明
鹿児島県農業開発総合センター 徳之島支場 支場長 末川 修

【要約】

 第2章では鹿児島県および沖縄県のサトウキビ生産地域における省力的安定多収栽培について、地域ごとの自然環境の概要、経営体の特徴、圃場(ほじょう)の自然環境の特徴を記述し、問題点を明らかにして、その克服、当該地域・経営における具体的な目標実現の方法を提案する。

 本稿では、第1部前編として鹿児島県の種子島、奄美大島、喜界島の分みつ糖生産について提案をする。
 (第1部後編では、徳之島、沖永良部島、与論島について、第2部では東は南・北大東島から西は与那国島にいたる沖縄県のサトウキビ栽培地域について扱う予定である。)

はじめに

 第1章では、サトウキビ産業を次世代から見て魅力的な産業にするため、産業の一層の高度化が必須であること、そのことを既存の製糖用産業の範囲内で考えた時、省力的・軽労的な方法で安定多収栽培を実現することが必要であり、その具体的な方法が、ビレットプランタ・ケーンハーベスタによる植え付け・収穫を基本にした機械化一貫栽培体系による多回株出し多収栽培であるとした。そして、それを実現するために関係者が知っておくべき基本的なサトウキビの特性と栽培上の要点について述べ、その鍵となる技術が、多回株出しに適応性の高い品種の利用、深植えと低い培土を基本とした肥培管理技術、深植え型ビレットプランタの開発とケーンハーベスタからビレットプランタに至る工程の一層の省力化、IOTによる圃場・機械施設・労働力の高度利用の達成であるとした。さらにそれを南西諸島のサトウキビ生産地に適用する概要について記した(詳細は当情報誌2021年10月号1)・11月号2)を参照されたい)。

 第2章では広大な海域に広く散在し、気象や土壌などの自然環境、栽培に従事する人々を取り巻く社会的環境(資金状況や労働事情)、それぞれが多様に異なる南西諸島の各生産地域に則して、その現状をできる限り明確に描き、実行可能性の高い具体的な方法、多様な地域に相応しい具体的な実践について述べようと思う。

 南西諸島のサトウキビ経営には、サトウキビ専作で比較的規模の大きな経営、サトウキビが主となる複合経営、サトウキビを従とする複合経営などがある。多くの作業を委託する小規模生産者、農業自体が従である兼業農家も多い。圃場も大小さまざまで、傾斜にも緩急がある。このように、個々の担い手は地域や個人に特有の異なる自然的環境、社会的環境に囲まれている。それがサトウキビ生産の現在である。その現在が苦境にある。多様な現在から始まる苦境脱出の具体的な方法、ここではそれを描こうと思う。具体的な状況を踏まえた上でできる限り具体的な方向を提案するつもりである。

 第1部で鹿児島県のサトウキビ栽培地域、第2部で沖縄県のサトウキビ栽培地域について、地域ごとに、(1)生産の現状と問題点(2)問題克服の基本的方向と栽培の要点(3)具体的な提案(4)残された課題と今後の方向−を述べようと思っている。読者諸氏には、自らの、あるいは、身近にある具体的な経営に導入することの可否、導入するために必要な一層の改良点の所在などの観点から、ここで述べる提案について吟味・評価くださることを望む次第である。

第2章 鹿児島県および沖縄県各地における省力的な多回株出し多収生産の具体的な方法

第1部:鹿児島県南西諸島におけるサトウキビ産業の持続的発展に必要なサトウキビ栽培の要点と具体的な対策

 鹿児島県の特徴的な地域の概要を第1章で示した。ここでは各地域に特徴的な経営への適用を念頭に、できる限り具体的な提案をしたいと思う。前編として本稿で、種子島、奄美大島および喜界島を、後編として当誌次号にて徳之島、沖永良部島、最後に与論島の経営に対する提案をしたいと思う。

第1節 種子島

1.種子島におけるサトウキビ生産(栽培・利用)の現状と問題点

(1)種子島の自然環境の概要

 種子島の耕地面積はおよそ8700ヘクタール、その内の2361ヘクタール(令和2年)がサトウキビ圃場である。温帯性の気候が特徴(平均気温20度程度)であり、圃場の位置(島中央部の低地)によっては霜が降りることもまれではない。冬は低温であるとともに強い季節風により生葉の損傷が多く、生育期間が南西諸島の中でも最も短く、茎中へのショ糖の蓄積は少ない。土壌の多くは、火山灰由来の黒色で窒素分が比較的高く茎の伸長に適した黒ボク土、あるいは同じく火山灰由来の窒素分が比較的少なく赤色で茎の伸長には黒ボク土より不適な赤ホヤ土である。梅雨が南西諸島の他の地域と比べて遅いこと、そして上に述べた土壌的な特徴により単位収量は他の南西諸島地域に比べて高い。梅雨時期が夏の高温期に近いために、干ばつ被害の発生は少ない。秋の台風に遭遇すると生葉の損傷によって茎の伸長が止まり、ショ糖の合成も止まる。

(2)サトウキビ経営の社会環境的な特徴

 種子島のサトウキビ栽培農家戸数は、ここ10年で4割強減少しており、収穫面積も2割程度減少している(図1)。サトウキビ経営の類型を少しおおまかに記述すると、(1)借地を伴いつつ経営を拡大している比較的大規模な経営(2)子牛生産を目的とする小規模な畜産業を伴う中規模経営(3)サツマイモとサトウキビとの輪作経営(4)花卉かき・園芸などを主とするサトウキビ輪作経営−などの類型がある。
 

(3)サトウキビ圃場の自然環境的な特徴

 島内のいずれの圃場も気象的にはほぼ同様であると考えて良い。しかし、西之表市の圃場は山がちの傾斜地に切り拓かれた段々畑が多く、多くの圃場は面積が狭いのが特徴である。中種子町にあるサトウキビ圃場の多くは台地の上部に開拓されたもので、比較的面積が広いが風が吹き抜ける圃場が多い(写真1)。南種子町には中種子町のそれと同様な台地上の圃場と海沿いの低地に広がる圃場が多い。
 


(4)サトウキビ栽培の特徴

 植え付けは2〜5月上旬に行われる春植えが多いが、9〜10月に行われる夏・秋植えもある。夏・秋植えはサツマイモ収穫後の輪作圃場が多いため、8月植えは少ない。11月以降の植え付けは低温のため、発芽・初期生育期の生育が抑圧され、2月以降に実施される春植えより生育が劣る場合が多い。植え付けのおよそ1年後に収穫する新植と収穫後に2〜3回程度継続される株出し栽培がある。奄美大島以南の地域に比べ、梅雨時期が遅く高温期に土壌水分が比較的豊かなこともあって単位収量は他の地域と比べて高い。かつては植え付け後や収穫後にマルチ施用による保温で発芽や萌芽(ほうが)(注1)を促進することによって多収を得る場合が多かったが、近年ではマルチの施用は減少している。近年の収量低下の要因の一つでもある。

 数年前までは高糖多収性で病害抵抗性に優れる農林8号の栽培が90%を超えていたが、現在は減少し、その分農林18号、農林22号などの株出し多収性が比較的優れる品種が普及し、直近では農林18号が約5割に達している。低温のためにマルチにより保温して萌芽を誘導することが多いこともあって、萌芽は良好だが株上がり(注2)が比較的激しく株出しは2回程度にとどまることが多い。10アール当たりの収量は夏植えの場合で6〜8トン程度、春植えで5.5〜7トン程度、株出しで5〜6.5トン程度である(図2)。

(注1)サトウキビは栄養繁殖のため、地上部の茎を収穫すると土壌中に残された茎の節部の芽子が発芽して成長する。これを萌芽と言う。
(注2)地上部の収穫後、地下に残った株から萌芽する茎の発生位置が新植茎の発生位置より上方、すなわち地表面に近くなること(参考-図1)。
 






(5)近年の課題

 低収要因としては、秋台風による生育阻害が生じる年もあるが、サトウキビ栽培農家の半減に起因するものが大きいと考えられ、(1)経営規模の大規模化に伴う労力不足や作業競合による管理遅れおよび管理(マルチ被覆など)の省略(2)省力・低コストを狙った株出し栽培の継続回数増加(3)被覆資材利用率の低下−などが生育の遅延、茎数減などを引き起こしていると整理される。これらのことは、萌芽性に優れた株出し多収品種を活用して、収量の維持向上、省力で低コスト生産を可能にする栽培管理体系を構築する必要があることを示している。

2.種子島におけるサトウキビ産業の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 農家数の減少・大規模化を負の要因にしないためには、何はともあれ、省力的な栽培技術を定着させることが重要である。省力的栽培の要点は第1章で述べたように、新植の面積を減らして株出しを充実させることである。すなわち、ビレットプランタ、乗用小型トラクタおよびハーベスタの機械化一貫体系を前提として、夏・秋植えを含めた萌芽性に優れた多回株出し栽培に適する品種(はるのおうぎなど)を導入し、植え付け、株出し栽培における根切り排土やマルチ被覆、培土などの管理作業および収穫作業の省力化技術を開発し、圃場や機械および労働力の高度利用を実現することである。多回株出しに必要な根圏土壌容量(注3)を確保するための深植えの有用性を検討することも重要である。

(注3)1茎当たりのサトウキビから発生する根が接することのできる土壌の容量(参考-図2)。

 

3.種子島のサトウキビ経営(あるいは圃場)への具体的な提案

 種子島のサトウキビ栽培の中核を担う、経営規模拡大に取り組む比較的大規模な経営体は、ハーベスタ収穫のオペレータを担っており、製糖期は収穫作業と株出し管理および植え付け作業が競合することから、省力化につながる技術導入や作業の分散が有効である。

 これに対する具体的対応の一つとして、第一に、ハーベスタの能力向上が挙げられる。ハーベスタ収穫が90%を超える状況の中、現行の普及機種は、狭小圃場での機動性が高いものの、多収や倒伏した圃場での能力不足を指摘する声がある。今後、機械の導入や更新にあたっては、ハーベスタの高出力化の検討が必要であろう。また、株出し管理作業については、収穫直後の株(そろ)え、根切り排土、基肥施肥、施薬、マルチ被覆に加え、その後の追肥と2回の培土が基本技術とされ、収穫後にハカマ(注4)を焼却する事例もみられる。大規模経営体の大半は、先にも述べたがハーベスタ収穫のオペレータを担うことから、株出し管理作業がなおざりにされるケースもみられる。そのため株出し管理作業の削減につながる技術導入が不可欠である。例えば、低温下でも株出し萌芽性の高い品種を導入してマルチ被覆の削減や根切り排土や培土回数を削減する、中耕作業をロータリからけん引式作業機(スクープなど)に変更して作業時間の短縮とハカマ焼却の回避を図る、さらに、緩効性肥料を用いた基肥一発施肥体系による労力削減などが有効であろう。また、植え付け作業では、ハーベスタ採苗とビレットプランタの導入による植え付け時間の削減に加え、株出し多収品種の導入による株出し継続回数の増加を通した植え付け面積の削減や無霜地帯での夏・秋植え栽培の導入による作期分散も有効と考える。

 また、収穫作業を委託する小中規模生産者が、近年、種子島の栽培面積の約50%に達する農林18号の導入を進めていると聞く。農林18号は、低収量地域でも収量を確保しやすく無マルチ栽培が可能とされているが、一般圃場では伸びすぎて乱倒伏し、ハーベスタ収穫の作業能率低下の一因となっている。農林18号のこれ以上の増加は、島全体の収穫作業の効率低下につながると危惧される。令和4年から一般栽培が始まる株出し多収性新品種はるのおうぎは、株出し萌芽性が高く、株出しでの無マルチ栽培も期待されており、農林18号並みの栽培管理での株出し多収性が可能と考えられる。そのため圃場の地力や生産性を考慮して、はるのおうぎと農林18号を使い分けるなど地域や圃場別の品種選択を検討することが経営の改善に有用であると思われる。

(注4)サトウキビの枯葉など収穫残さ。

4.種子島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 高齢化の進行などにより、サトウキビ栽培農家戸数の減少が著しい種子島では、サトウキビ生産量の維持のための、単収向上はもとより栽培面積の維持が大きな課題である。そのためには、経営力のある大規模経営体(法人、協業、集落営農)などがサトウキビの栽培面積の大部分を担う生産体制の確立が必要であることから、サトウキビ生産者や関係機関・団体においてその実現に向けた方法を検討することが必要である。

第2節 奄美大島

1.奄美大島におけるサトウキビ生産(栽培・利用)の現状と問題点

(1)奄美大島の自然環境の概要

 奄美大島の耕地面積はおよそ2150ヘクタール、その内の620ヘクタール(令和2年)がサトウキビ圃場である。気候は、奄美群島全般に共通するが亜熱帯海洋性の気候である。年平均気温は22〜23度程度で、梅雨明けは6月下旬頃であり、その後の7、8月は降雨が少なく、干ばつにより茎の伸長が抑制される。台風は主に7〜10月に襲来し、干ばつ期には降雨をもたらし恵みの雨となるが、台風の進路によっては甚大な影響を及ぼす。夏期の襲来では茎の折損などによる単収低下、秋期の襲来では葉の裂傷などによる糖度上昇阻害の要因となることも多い。

(2)サトウキビ経営の社会環境的な特徴

 奄美大島のサトウキビ栽培農家戸数は、ここ10年で3割以上減少し、奄美群島内では減少率が最も高い。一方、1戸当たりの経営面積が増加しているため、収穫面積の減少は1割程度にとどまっている(図3)。経営としては、(1)借地を伴い経営を拡大する大規模志向農家や(2)子牛生産を目的とする畜産業を伴う小規模経営のほか(3)担い手が高齢であることや他産業を主たる経営とすることによる小規模兼業経営−が多い。収穫作業は機械化が進み、収穫面積の約96%はハーベスタ収穫である。

 
 
(3)サトウキビ圃場の自然環境的な特徴

 サトウキビ圃場の大半は島の北部(旧笠利町)に集中しており、一部は水田跡地で栽培されている(写真2)。圃場整備により比較的広い圃場もあるが、未整備で狭小な圃場も多い。土壌は、本土の水田に多い灰色低地土と、粘板岩(ねんばんがん)頁岩(けつがんを母材とする黄色土が多く、いずれも排水性はあまり良くない。
 
 
(4)サトウキビ栽培の特徴

 
これまで多かった夏植えの栽培面積減少が大きく、現在は春植えと夏植えが同程度で、両者を合わせた新植栽培が3割、株出し栽培が7割を占める。株出し回数は、2回以上が5割未満であり、奄美群島の中では、株出し回数は多くない。飛び抜けて多く栽培される品種は無く、農林23号と農林22号、農林27号、農林17号の4品種で約5割を占め、近年、農林27号が増加している。10アール当たりの収量は夏植えの場合で4〜7トン程度、春植えで2.5〜5.5トン程度、株出しで2.5〜4.5トン程度であり、奄美群島内では低い(図4)。
 

 
(5)近年の課題

 
奄美大島は、生産者の高齢化などによる離農や後継者不足などから、栽培農家数が大きく減少している。労力不足から雑草対策や肥培管理などの管理作業を行えない生産者が増加しており単収も低い。単収向上が大きな課題である。

2.奄美大島におけるサトウキビ産業の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 農家数の減少が大きい奄美大島では、サトウキビ生産量を維持するには、基盤整備地区への植え付け拡大や休耕地の農地化による栽培面積の確保に加え、単収の向上が最大の課題である。そのためには、離農により放棄される圃場を、規模拡大志向の生産者などへあっせんして栽培面積を確保することに加え、適期管理の実施や地域に適する品種構成により省力的安定生産技術を確立・定着させることが重要である。具体的には、ビレットプランタ、乗用小型トラクタおよびハーベスタの機械化一貫体系を前提として、新植では適期植え付けと植え付け後のかん水、株出しでは収穫後の速やかな株出し管理を実践できる体制を構築することで改善が期待できる。また、株出しの多回化による収穫面積の確保に向け、根圏土壌容量を確保するため深植えの有用性を検討することも重要である。

3.奄美大島のサトウキビ経営への具体的な提案

 サトウキビのハーベスタ収穫を担う営農集団は、委託農家を含めた収穫作業が優先されることから自営の植え付けや株出し管理作業の遅れが常態化している。これが、単収低下の主な要因と考えられる。地域全体としては、それらを補完する収穫作業以外を受託する農作業受託組織の育成が急がれるとともに、製糖期間の圃場の管理作業をより省力化する技術体系を構築することが重要である。

 具体的には次のことを提案したい。株出し管理作業としては、新品種(はるのおうぎ)や有望系統として試験されている(RK10-29)に見られる特性、すなわち、株出し適性の高い品種の導入や中耕作業のロータリからけん引式作業機(スクープなど)への変更による作業時間の短縮、緩効性肥料を用いた基肥一発施肥体系による労力削減などが考えられる。また、植え付け作業では、ハーベスタ採苗とビレットプランタの導入や株出し多収品種の導入での株出し回数の増加による新植機会の削減、新植栽培での夏植え割合を高めることによる春期の労力分散も有効と考える。これにより植え付けおよび株出し管理作業を適期に実践できる体制を整えることが重要である。さらにハーベスタ採苗+ビレットプランタ体系の導入に当たっては、発芽率向上のための良質苗確保が重要であり、種苗に適した若い茎を生産する種苗生産圃場を確保することの有用性が高いと思われる。

4.奄美大島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 奄美大島の単収低下の要因については、高齢化や労力不足による肥培管理の不徹底に加え、地域全体の地力の低下がある。労力不足への対応としては、先にも述べたが、植え付けや株出し管理など収穫作業以外の農作業受託組織の育成が急務と考える。また、地域全体の地力向上については、島内での未利用資源の探索・評価や島外も含めた有機物を確保できる仕組みの構築が必要であろう。

第3節 喜界島

1.喜界島におけるサトウキビ生産(栽培・利用)の現状と問題点

(1)喜界島の自然環境の概要

 喜界島の耕地面積はおよそ2250ヘクタール、その内の1674ヘクタール(令和2年)がサトウキビ圃場である。気候は奄美大島とおおむね同様、亜熱帯海洋性の気候である。年平均気温は約22〜23度で、梅雨明けは6月下旬頃であり、その後の7、8月は降雨が少なく、干ばつによる茎の伸長が抑制されることが多い。台風は主に7〜10月に襲来することが多い。

(2)サトウキビ経営の社会環境的な特徴

 喜界島は、サトウキビの島であり、他の作物は少ない。ゴマの生産がわずかにあるが経済的重みは大きくはない。野菜などの栽培も少なく、サトウキビに次ぐ品目は子牛生産となっている。漁業もあるが、販路などに制限があるため、島の経済を潤すほどには至っていない。サトウキビはまさに島の基幹作物であり製糖業は基幹産業である。

 経営では、(1)借地を伴い経営を拡大している大規模経営や大規模志向経営(2)子牛生産を目的とする畜産業との複合(3)夏期にゴマを輪作する経営−などがみられる。1戸あたりの平均収穫面積は約2.6ヘクタールと鹿児島県内では最も大きく、経営規模の拡大が進みつつある。収穫作業は機械化が進み、収穫面積の約97%はハーベスタ収穫である。サトウキビ栽培農家戸数は、ここ10年で約2割減少しているが、株出し回数の増加により収穫面積は1割程度増加している(図5)。

 

(3)サトウキビ圃場の自然環境的な特徴

 喜界島は隆起サンゴ礁の島であり、島の中央部百之台の下、海に沿う低地にサトウキビの圃場が広がっている(写真3)。その他製糖工場側の緩傾斜地にもサトウキビ圃場が広がっている。北の海岸線近くの圃場では季節風による生葉の損傷が大きい。中央部の台地、緩傾斜地に広がる圃場では台風時の茎の折損が多発する。土壌の多くは、粘着性が強いため耕耘(こううん)しにくく、干ばつ被害を受けやすい隆起サンゴ礁が風化した暗赤色土である。粘着性は強いが固結化しにくく、干ばつ被害を受けにくいために奄美群島では最も生産性の高い泥灰岩土壌もみられる。地下ダムによるかんがい施設も整備されている。
 

(4)サトウキビ栽培の特徴

 喜界島は、以前は夏植え主体の島であったが、春植え・株出し体系への移行が進みつつあり、夏植え面積は半減している。現在は、夏植えが約2割、春植えが約1割、株出し栽培が約7割である。株出し回数は、2回以上が5割を越え、株出し回数も増加傾向にある(図6)。主な品種は、農林27号が急増し、農林23号は横ばい、農林8号は減少傾向であり、この3品種で75%を占める。10アール当たりの収量は、夏植えで5.5〜8トン程度、春植えで4〜6トン程度、株出しで4〜6トン程度である。



 
(5)近年の課題

 喜界島では、夏植え中心から春植え・株出し体系に移行しつつある中、株出し栽培の増加により収穫面積は増加しているものの生産量は増加に転じているとまでは言えない。近年は各作型の単収も減少傾向であり各作型に応じた単収向上対策が必要である。

2.喜界島におけるサトウキビ産業の問題克服の基本的方向と栽培改善の要点

 喜界島は、奄美群島内でも畑地かんがい施設の普及率が高く、全作型において干ばつ期の早めのかん水による茎伸長の促進や、植え付け直後のかん水による発芽数の確保による単収向上を図る必要がある。また、近年、急激に面積が増える農林27号は、夏植え収量は高いが低温時の萌芽性の悪さから株出し生産性が不安定なため、作型に対応した品種構成や栽培技術を確立することが必要である。また、他の島にも共通するが、ビレットプランタ、乗用小型トラクタおよびハーベスタの機械化一貫体系を前提とした、省力的安定生産技術の確立・定着による各作型の適期管理を実現することが重要である。さらに株出しの多収化と多回化に向け、その鍵となる株上がりの抑制に有効な根圏土壌容量の確保に必要な深植えの実施も必要である。

3.喜界島のサトウキビ経営への具体的提案

 喜界島は、鹿児島県では経営の大規模化が進んでおり、奄美群島内で唯一中型ハーベスタも大規模経営体で導入されている。この大規模経営体については、高収量圃場でのハーベスタの出力不足を懸念することは想定されづらいことから、夏植えは適期(9月上旬まで)に植え付けを完了することが重要である。適期植え付けの実践は、高単収への期待と年内最終培土を可能とし、生育前半の雑草対策も容易となる。なお、植え付け時期は猛暑の干ばつ期となることから、ハーベスタ収穫によるビレットプランタ利用体系とかん水による発芽促進に取り組むことが重要である。安定した株出し栽培に移行するには、品種特性に応じた栽培面積を構成する必要がある。特に農林27号は、低温期での株出し萌芽性が劣るため、極低温期を避けた年内収穫の実施により、株出し萌芽性を安定化させることが重要である。農林27号の年内収穫の実現に向けては、農林27号の夏植えからその後の株出し回数を考慮した年内収穫可能面積と、製糖期間を通じたハーベスタの収穫行程などの圃場配置を検討して欲しい。これらの実施と併せ、前項(第1章)でも述べた新たな機械化一貫体系による省力的安定生産技術による適期管理と新植時の深植えを実現することにより、生産量確保に向けた改善が期待できるものと考える。

4.喜界島のサトウキビ生産に残された課題と今後の方向

 喜界島では、経営の大規模化により、ハーベスタ収穫作業もほぼ自営農場分で完結し、収穫後の株出し管理を速やかに実施できる経営体もある。一方、ハーベスタ収穫受託に追われ、自営農場の株出し管理や春植え栽培の植え付け作業が製糖期以降(4月以降)になる経営体も多い。それらを補完する受託組織の活動を円滑に進めるためにはオペレータの人員確保および技能向上が重要である。サトウキビは夏場に行う作業が少なく周年雇用が困難なことから、人材の確保に苦慮しているため、他産業などとも連携して優秀な人材を確保していく必要がある。

 12月号第2章第1部(後編)に続く。
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