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サトウキビ連続多回株出し栽培の生産性向上に必要な品種特性と既存の主要品種・有望系統の特性およびその利用可能性−前編−

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最終更新日:2024年3月11日

サトウキビ連続多回株出し栽培の生産性向上に必要な品種特性と既存の主要品種・有望系統の特性およびその利用可能性−前編−

2024年3月

国立研究開発法人国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点
主任研究員 寺島 義文
サトウキビコンサルタント 杉本 明

【要約】

 南西諸島におけるサトウキビ品種の変遷と株出し収量向上に必要な品種特性を説明し、今後重要となる多回株出し多収生産に向け、既存の主要品種・有望系統の特性とその利用可能性について提案する。前編となる本稿では、南西諸島で使われている品種についての理解を深めるために、普及品種の推移、多回株出しの実現に必要な品種特性さらに現在の主な品種の特性を解説する。
 

はじめに

 筆者らはこれまで南西諸島におけるサトウキビ生産上の課題解決に向けて、多回株出し栽培の実現を提案し、土づくりや深植え、雑草管理、農薬の適切な使用を含む肥培管理技術の重要性を提示してきた(注1)。本来、サトウキビの株出し栽培は、春植えより単収が増えるものであるが、一般的には新植より単収が劣ることが多く、回数を重ねるごとに収量が落ちるため、現在南西諸島の株出し回数は2〜3回程度が主流となっている。本稿では、連続5回程度の多回株出し栽培でも10アール当たり6トンから7トン程度の安定生産を可能にするために、肥培管理・収穫技術開発と並んで重要な役割を担っている品種特性に焦点を絞り解説する。


(注1)詳細は『砂糖類・でん粉情報』2021年10・11月号「南西諸島におけるサトウキビ省力的安定多収生産の要点―産業の持続的発展に向けて―」https://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002516.htmlhttps://www.alic.go.jp/joho-s/joho07_002532.html)を参照されたい。

1 南西諸島におけるサトウキビ品種の推移

 南西諸島のサトウキビ生産は、明治以降、「読谷山(ユン タン ザン)」などの中国細茎種(S. sinense、竹蔗、ブリックス16〜19%)を栽培した中国細茎種時代(明治初期〜大正)の後、「POJ2725」などジャワ大茎品種(ブリックス19〜21%)を利用した大茎種時代(昭和初期〜昭和35年頃)に移行した。ジャワ大茎品種は、中国細茎種より糖度が高かったため、砂糖(黒糖)収量が増加した。しかし、ジャワ大茎品種は赤道に近い熱帯多雨のインドネシアで育成された品種であり、比較的低温な南西諸島の冬春収穫では株出し栽培が困難であった。その後、台湾から導入された、台風や干ばつへの耐性を備え、分げつが旺盛で南西諸島の冬春収穫でも株出し栽培が可能な南アフリカ育成品種「NCo310」を利用するNCo時代(昭和35年〜平成元年頃)になることで、株出し栽培の生産性が向上して栽培面積が増加した1)。「NCo310」は、根系の発達が良く、やせた土壌や乾燥地にも適応するなど土壌や気象条件に対する適応性が広かったため、30年近く沖縄県・鹿児島県の主力品種として栽培された。その後、「NCo310」へのさび病や黒穂病のまん延、平成6年からの砂糖の生産効率を重視する品質取引への移行により、国内で育成された品種を利用する国内育成品種時代(平成元年頃〜現在)に移行し、「NiF8」や「Ni9」「Ni15」などの高糖品種の利用が広がった。

 それから現在に至るまで、製糖初期の糖度改良や収穫期間拡張などに向けた早期高糖性、黒穂病や台風、干ばつなどへの抵抗性、株出し栽培での収量向上が重要な育種目標になるとともに、地域の多様な環境それぞれに合う品種開発を目指す「地域生態型育種」が進められ、多くの品種が育成された。さらに、遺伝的多様性の拡大、株出し栽培での収量向上、不良な環境への適応性改良を目的に、サトウキビ野生種との種間交配が取り組まれ2)、令和元年には種間交配を利用した日本初の製糖用品種「はるのおうぎ」が育成された3)。これまでに、国内では34品種が育成されてきたが、沖縄県では、「Ni27」を中心に、「Ni21」「Ni22」「NiH25」「Ni26」「Ni28」「Ni29」「RK97-14」などが栽培されている(図1)。鹿児島県では、「NCo310」が減少した後、長らく「F177」と「NiF8」が主要な品種となっていたが、「Ni17」「NiTn18」「Ni22」「Ni23」への置き換わりが進んでおり、現在は、種子島では「はるのおうぎ」、奄美地域では「Ni27」の栽培面積が増加している。
 
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2 株出しの収量向上に必要な品種特性

(1)サトウキビ品種・栽培技術開発の歴史と株出しの課題

 南西諸島でのサトウキビ産業は、新しい品種の利用と栽培技術開発の両輪で発展してきた。中国細茎種からジャワ大茎品種への移行では、夏植えと深溝植・高培土方式の栽培技術の開発によって蔗茎収量が大幅に向上した1)。その後、株出し性が優れる「NCo310」への移行では、根切り・中耕や株(ぞろ)えなどの株出し処理技術の開発が行われ、株出し栽培の収量が向上して栽培面積・収穫面積が増加した1)。さらに、「NiF8」「Ni9」「Ni15」などの高糖品種への移行では、適期の肥培管理と十分な資材(肥料など)の投入を前提にした多収生産技術が開発、推奨された。

 しかし近年、担い手減少による生産農家1戸当たり栽培面積の増加と高齢化の進展により、収穫や植え付け作業などの急速な機械化が進んだ一方で、圃場(ほ じょう)当たり投入労働力の減少による肥培管理の遅延や省略、単収が低いままでの株出し栽培面積の増加が生じ、単位収量や生産量の不安定化を引き起こしている。さらに最近は、肥料、農薬などの価格高騰が経営を圧迫している。これらの現状は、高糖品種と適期肥培管理、労力や資材の多投入を前提にした、「砂糖の生産効率」を重視する栽培体系の維持が難しくなってきていることを示唆している。このような現状に適応した品種、すなわち、機械化栽培体系下での省力的な多回株出し栽培でも安定生産が可能な品種の開発と、農家が実施可能な多回株出しを重視した新たな省力・低投入型の栽培技術開発が必要になっている。

(2)株出しの収量向上に重要な品種特性

 サトウキビの株出し栽培は、収穫後地下に残る株から再生する萌芽(ほう が)茎を栽培して収穫を複数年にわたり繰り返す作型である。株出し栽培で多収生産を実現するためには、地下株から萌芽する茎をできるだけ多く確保して大きく生育させることが重要である。株出し栽培での萌芽茎数確保では、前作収穫時に圃場の地下に多数の生きた芽子があることが重要であり、茎数が多い茎数型の品種や地下茎の節数が多い品種の方が株当たりの地下芽子数が多くなるため、萌芽茎数確保の面で有利である。また、新植栽培での良好な生育も、地下芽子数の確保を通して、株出し多収の重要事項となるため、新植栽培での欠株や生育不良、機械収穫時の株の引き抜きや高い土壌踏圧は、地下芽子数の減少、土壌環境の悪化を通して株出し栽培での茎数確保に大きな悪影響を及ぼす。そのため、発芽が優れる特性や、機械収穫でも株の引き抜きが少ない特性、土壌踏圧が高くても萌芽する特性は、ハーベスタ収穫を前提にした株出し栽培を長く継続するための重要事項である。

 株引き抜きの割合を少なくするためには、茎数が多く、根が多く深く発達する品種特性が有利であると考えられる。鹿児島県は株の引き抜き抵抗性を評価する手法を開発しており、今後の育種への利用が期待される4)

 土壌踏圧の影響を受けにくい特性としては、茎数が多く地下芽子が多い特性や、深いところから萌芽することで踏圧による地下芽子の損傷を回避できる特性、土壌の物理性が悪化してもたくましく萌芽してくる特性が重要になる。

 また、多回株出し栽培では、株出し回数が増えるごとに、萌芽位置が地際に近くなる「株上がり」が起こるのが一般的である(図2左)。株上がりが起こると、萌芽茎数の維持に重要な地下芽子数の減少とともに、根量も減少するため、機械による引き抜きや土壌踏圧の影響をより受けやすくなると考えられる。そのため、株上がりを起こしにくい特性は、株出し栽培での茎数確保のための重要特性となる。さらに、地下芽子数の確保とともに、地下芽子がより多く萌芽してくる品種特性も株出し栽培での茎数確保に重要なため、収穫期が冬の南西諸島では、低温下での萌芽の速さが雑草被害軽減の面からも重要な特性となる。

 株出し栽培での収量は、茎数の減少より1茎重減少の影響が大きい場合が多いことが報告されている5)。そのため、多回株出し栽培での多収生産の実現には、萌芽茎を大きく生育させることも重要である。萌芽茎の旺盛な生育確保の面では、深い位置から萌芽した茎は、浅い位置から萌芽した茎よりも1茎重が大きいことが報告されている5)。これは、深い位置から萌芽した茎は、地下節数が多いため根量が多く、1茎当たりの根圏土壌容量も大きくなることから、より多くの養水分を吸収できるためと考えられる(図2右)。つまり、多回株出しでの1茎重の確保には株上がりの抑制が重要であり、萌芽性が優れるだけでなく、土中の深い位置から萌芽する株上がりが起こりにくい品種特性は、多回株出し栽培での1茎重確保の面からも重要である。さらに、根の発達が旺盛で株上がりが起きても根の量が多く、深く発達させることができる品種特性は、株上がりの悪影響を緩和できることから、1茎重の確保にとって重要であろう。
 
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3 多回株出しでの収量向上に向け利用可能な主要品種・有望系統の特徴的特性

 先述のように、品質取引への移行後、「NiF8」や「Ni15」などの高糖品種が主要品種として栽培されてきた。これらの品種は、糖度が安定して高く、耐病性に優れ、脱葉性が良いため人力収穫、機械収穫の双方に適する優良品種であり、産業の発展に大きく貢献した。現在は、「NiF8」を母親として育成された「Ni27」が広く普及している。上述した品種の特徴は、栽培適地が広いことに加え、適切な肥培管理が行える圃場では安定生産が可能なことである。一方で、適切な肥培管理が行えない場合には、生産が不安定になりやすいため、現在求められている省力的な機械化栽培体系や長期間の株出し栽培への適応性という面では十分ではない。

 このような課題の解決に向けて、南西諸島各地の多様な環境それぞれに適応する株出し収量が高い品種の開発が進められ、多様な特性を備える品種が開発されてきた。また、沖縄県農業研究センター(以下「沖縄農研」という)、鹿児島県農業開発総合センター(以下「鹿児島農総セ」という)、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター(以下「九沖農研」という)、国立研究開発法人国際農林水産業研究センターは、ビレットプランタを利用する機械化一貫体系下での多回株出しを実現する品種の開発に向けて、「次世代型機械化一貫栽培技術の導入を促進させる株出し多収品種の開発」を連携して実施しており、後述する「RK10-29」などの有望系統が開発されている。これらの品種や有望系統を、地域や圃場の環境、各農家の労力・資材投入の多少や機械化状況などに合わせ、既存の主力品種と組み合わせて利用することで、多回株出しでの収量向上に貢献できると考えられる。

 以下、現在の主力品種「Ni27」とともに、多回株出しでの収量向上に向けて利用可能な品種・有望系統の特徴的な特性について説明する。

(1)Ni27(農林27号)

 鹿児島県のサトウキビ収穫面積の25%程度、沖縄県の収穫面積の50%程度で栽培されている奄美・沖縄地域向け品種(図3)。茎数、茎長は「NiF8」と同程度だが、茎が太く1茎重が大きいため、「NiF8」より多収である。糖度が安定して高く、脱葉性が良いため人力収穫にも向く。風折抵抗性が劣るため、遅い春植えなど、梅雨明けまでに十分な茎伸長を得られない場合は、台風による折損多発の危険性が高まることから、夏植え+株出し栽培体系での利用が推奨されている。栽培面積の増加に伴い、現在、黒穂病やさび病の多発生が課題となっている。適切な肥培管理が実施される場合には、複数回の株出しでも収量が多いことが示されているが、低温下での萌芽性が劣るため、12月収穫などの低温が厳しい時期の収穫では萌芽率が低くなる6)。また、株出し栽培を継続した場合には、1茎重の減少だけでなく茎数の減少が収量へ与える影響が大きく7)、多回株出し栽培での収量確保には、萌芽茎を確保して茎数を維持することが重要となる。適期肥培管理や資源の多投入が難しくなる中で、多回株出し栽培での収量向上を実現するためには、このような主力品種のみの利用では難しいことから、圃場条件や労力・資材投入の多少、収穫時期などに合わせて品種を選定し、異なる品種を組み合わせて利用することが必要である。
 
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(2)Ni17(農林17号)

 奄美地域や沖縄本島中南部、久米島で栽培されている奄美・沖縄向け品種(図4)。茎が太く高糖で、風折抵抗性や耐倒伏性が優れ、機械収穫に適する。潮風害を受けた後の回復が早い。地下節数や根量が「NiF8」より多く萌芽性に優れ、株出し2回目でも1茎重の減少が起こりにくいなどの利点があり、多回株出しでも多い収量が期待できる(表1)。近年栽培面積が減少しているものの、水田からの転作畑など、比較的肥沃(ひよく)度や保水性の高い土壌での栽培において風折抵抗性や耐倒伏性、潮風害後の回復が早いなどの特性が評価され、根強く栽培されている。茎の伸長性がやや劣り春植え栽培では「NiF8」より収量がやや低いなどの欠点があることから、春植え栽培では、植え付けが遅れないように注意が必要である。
 
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(3)NiTn18(農林18号)

 冬季の低温が厳しく、分蜜糖生産原料栽培の北限となっている鹿児島県熊毛地域(種子島)向けの品種(図5)。発芽、初期生育、茎伸長に優れ、春植え、株出し栽培ともに、「NiF8」に比べて多収となる(表2)。黒穂病に弱く、脱葉性が劣り、NiF8が多収となる圃場・条件では伸びすぎて乱倒伏する、耐干性がやや劣るなどの欠点があるものの、低温条件下での萌芽性や茎の伸長性が優れるため、種子島における無マルチでの株出し栽培でも「NiF8」のマルチ栽培と同程度の収量が期待できる。農家の高齢化などによる株出し栽培でのマルチ栽培面積の減少などにより「NiF8」の栽培面積が減少する中、「NiF8」の収量が少ない圃場などでの作付けにより、種子島のサトウキビ生産を支えている品種である。
 
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(4)Ni21(農林21号)

 沖縄本島中南部、久米島、宮古島、石垣島で栽培されている沖縄地域向け品種(図6)。茎がやや太く、風折抵抗性に優れ、潮風害を受けた場合でも糖度が比較的高い。茎数は多くはないが、萌芽率が高く、茎の生育が良好で1茎重が大きいことから、株出し栽培でも「NiF8」や「Ni9」より多収である(表3)。水はけの悪い環境では黒腐れ病などの影響で発芽不良の場合がある。本品種を利用した多回株出し栽培での収量維持には、新植栽培での十分な茎数の確保に向け、水はけの良い圃場の選定、優良種苗の利用、植え付け時に苗を多めに入れ覆土を薄くするなどによって発芽を確保することが重要である。
 
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(5)Ni22(農林22号)

 南西諸島全域で栽培されている品種(図7)。茎が細く、1茎重は小さいが、発芽性や分げつ性、初期伸長性、萌芽性が優れる。早期高糖性であることから12月収穫でも「NiF8」などより糖度が高く、その後の萌芽も期待できる(表4)。土壌肥沃度が高い圃場や、十分な労力・資材の投入が可能な条件下での株出し栽培では、1茎重が確保できるため多い収量が期待できるが、低肥沃度の圃場や十分な労力・資材の投入ができない条件下では、茎が細くなり1茎重が減少し、株出しでの収量が少なくなることがあるため、培土を早めに実施するなどの対策が必要である。
 
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(6)Ni23(農林23号)

 奄美地域向け品種(図8)。発芽・萌芽が優れ、茎径はやや細いが、分げつ・茎伸長が旺盛で、春植え、夏植え、株出しの3作型で「NiF8」より多収である(表5)。耐風性や黒穂病抵抗性が劣るが、根が深く発達することから、干ばつ条件下でも茎伸長が優れ、「NiF8」より多収である。干ばつの被害を受けやすい与論島の主力品種である。株出し2回目でも、茎数や1茎重の新植(春植え)に対する減少程度が小さく「NiF8」や「Ni27」より収量が高い。さらに、株の引き抜き抵抗値が「NiF8」より高く、ハーベスタ収穫での欠株の発生が「NiF8」より少ない可能性が指摘され、多回株出しに適すると考えられる。
 
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(7)NiH25(農林25号)

 沖縄本島、宮古島、石垣島で栽培されている沖縄地域向け品種(図9)。「NiF8」と比べ新植の茎数はやや少ないが、初期伸長性が優れ、茎長、1茎重が大きい茎重型品種で、干ばつ条件下の株出し栽培でも「NiF8」などに比べて収量が多い(表6)。肥沃な圃場では伸びすぎて乱倒伏する、黒穂病抵抗性が劣る、糖度がやや低いなどの欠点はあるが、土壌肥沃度が低い圃場や干ばつ被害が起きやすい圃場など、収量が不安定になりやすい圃場で利用することで、株出し栽培も含めた収量の向上が期待できる。茎重型で茎数が少ないため、新植栽培での植え付け苗量を多めにするなどにより、茎数を確保することが重要である。
 
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(8)Ni26(農林26号)

 干ばつや台風などの気象災害を受けやすい南大東島、北大東島で栽培されている沖縄地域向け品種(図10)。黒穂病抵抗性が劣るが、原料茎数が多く、「F161」に比べて株出しでは安定して多収である(表7)。早期高糖性で、12月に収穫した場合でも「F161」や「NiF8」より糖度が高く、その後の萌芽も良好であるため、早期収穫が可能である。「F161」などと比較して折損しにくいという利点がある。
 
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(9)Ni28(農林28号)

 沖縄本島全域、久米島、南大東島、北大東島で栽培されている沖縄地域向け品種(図11)。分げつ性、萌芽性に優れ、茎数が多く、多回株出しでも収量が多い(表8)。株出し栽培で重要となる黒穂病への強い抵抗性を備えており、風折抵抗性や耐倒伏性にも優れる。登熟が早いため早期高糖品種としても利用可能である。春植えでの収量がやや劣ることから、苗数を3割程度多く植える密植が推奨されている。

 
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(10)RK97-14

 沖縄県全域を栽培対象とする品種であり、沖縄本島全域、南北大東島地域、宮古島、石垣島で栽培面積が増加している(図12)。発芽性や初期伸長性に優れ、茎が長く太いため、1茎重が大きい。「NiF8」と同程度の早期高糖性と高糖性を備える。春植え、夏植え、株出しの3作型すべてで「NiF8」より収量が多い(表9)。萌芽性は「NiF8」などと比較するとやや劣ることから、多回株出し栽培で多収を維持するためには、新植栽培での茎数確保が重要である。また、低温下での萌芽性がやや劣ることから12月収穫での株出し栽培では、1月以降に収穫した場合より収量が低くなる場合がある。土壌肥沃度が高く、「NiF8」などが多収になる圃場では、茎が伸びすぎて乱倒伏し、ハーベスタ収穫が困難になる場合がある。このため、そのような圃場では、深溝植えの実施、植え付け時期を遅らせる、培土を適切な時期に実施するなどの倒伏を軽減する対策が必要である。既存品種が少収になる圃場での利用で、地域の収量向上が期待される。
 
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(11)はるのおうぎ

 サトウキビ野生種を用いて開発した多数回の収穫が可能な飼料用サトウキビ品種「KRFo93-1」と製糖用の高糖性品種「NiN24」の交配で育成された鹿児島地域向け品種(図13)。種間交配を利用して育成された日本初の製糖用品種である。発芽性、分げつ性、初期伸長性に優れ、萌芽性が極めて優れるため、株出し栽培の茎数が「NiF8」の1.4〜2倍程度となる。そのため、株出し栽培で特に多収となり、熊毛地域では、株出し2回目での原料茎重、可製糖量は「NiF8」の1.5倍程度となる(表10)。茎が細く、1茎重が軽いなどのほか、脱葉性、黒穂病抵抗性、さび病抵抗性が劣るなどの欠点があるが、低温下での萌芽性、伸長性が優れるために収穫後の再生が非常に早く、無マルチでも株出し栽培が可能である。また、ハーベスタでの採苗において、茎数や1茎当たりの節数が多く、健全な芽子を多く確保できるため、ビレットプランタでの植え付けに適することから、今後の省力・低投入での多回株出し多収生産の実現に向けた重要な特性を備えている。筆者の石垣島における観察では、「はるのおうぎ」は「NiF8」や「Ni27」より萌芽深度が深く、株上がりしにくい特性を備えている。そのため、慣行より深く植え付ける「深植え」などの栽培技術と組み合わせることで、株上がりを抑制し、細茎化による1茎重の減少を抑えつつ、より長期の多回株出し栽培での多収生産が実現する可能性がある品種である。



 
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(12)RK10-29(有望系統)

 奄美・沖縄地域向けの新品種候補系統(図15)。茎が細く1茎重は小さいが、発芽性、分げつ性が優れ、茎数が新植、株出しともに「NiF8」より多いため、晩熟で糖度がやや低いものの、春植え、夏植え、株出しともに可製糖量が多く、多回株出し栽培でも「NiF8」などの普及品種より多収である(表11)。株出し栽培で重要な黒穂病抵抗性も備えている。はるのおうぎと同様に、ビレットプランタでの植え付けに向けたハーベスタ採苗において、「NiF8」より重量当たりで3割以上多くの健全芽子を確保でき、植え付け後の発芽率も高い。省力・低投入での多回株出し多収生産の実現に向けて重要な特性を備える期待の品種候補系統である。
 
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(13)RK10-33(有望系統)

 沖縄地域向け新品種候補系統(図15)。初期伸長性、茎伸長性が優れる。発芽性や分げつ性、萌芽性も優れ、糖度も「NiF8」と同程度であることから、春植え、夏植え、株出しの3作型で原料茎重、可製糖量が多い。茎伸長が極めて優れるため、沖縄本島北部地域などの春植え、株出し栽培体系の地域において、茎伸長が不良で収量が少ない圃場での株出し栽培における収量改善が期待される。耐倒伏性が劣ることから、土壌肥沃度が高い多収圃場や早い時期の夏植えでは、乱倒伏して収穫が困難になるため、春植え・株出し体系や遅い夏植えでの利用が想定される。

 次号掲載予定の後編では、これら品種の特性を踏まえて生産地域ごとに株出しで利用したい品種・有望系統を記す(砂糖類・でん粉情報2024年4月号掲載予定)。

共著者一覧
鹿児島県農業開発総合センター徳之島支場 支場長 末川 修
沖縄県農業研究センター作物班 班長 内藤 孝

引用文献
1) 宮里清松(1986)『サトウキビとその栽培』日本分蜜糖工業会
2) Sugimoto et al. (2011) Developing new types of sugarcane by hybridization between commercial sugarcane cultivars and wild relatives. Proc. Int. Symp. FAO RAP-NIAS.pp.11-24.
3) 服部ら(2019)『農研機構研究報告』第2号pp.21-44.
4) 鹿児島県成果情報「引き抜き抵抗性評価手法」<https://www.naro.go.jp/laboratory/karc/prefectural_results/files/29_2_02.pdf> (2024/2/7アクセス)
5) Kamiya et al.(2016)Proc. Int. Soc. Sugar Cane Technol. vol. 29, 1120-1127.
6) 島谷真幸ら(2017)「沖縄県宮古地域においてサトウキビ6品種を異なる時期に収穫・株出し処理した 春植え株出し3回栽培の収量特性」『日本作物学会九州支部会報』83号pp.45-49.
7) 井上健一ら(2023)「奄美地域サトウキビ奨励品種の春植えから株出し2回目までの収量評価」『熱帯農業研究』日本熱帯農業学会16巻1号pp.21-24.
 
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