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【トップインタビュー】わが国の畜産物を家畜改良と実践技術から支える〜独立行政法人 家畜改良センター〜

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最終更新日:2019年5月8日

独立行政法人 家畜改良センター入江正和 氏 に聞く

 優良な家畜・家禽(かきん)の増殖、飼料作物などの供給、牛トレーサビリティ制度の運用、実践技術の開発などを通じて、わが国の畜産の発展と畜産物を通じた国民の豊かな食生活の実現に貢献している独立行政法人 家畜改良センターの入江理事長にお話を伺いました。

はじめに家畜改良センターの沿革と役割について教えてください。

独立行政法人 家畜改良センター入江正和  氏
独立行政法人 家畜改良センター入江正和 氏
 家畜改良センターは明治5年創設の開拓使所管牧場に始まり、その後、次々と設立された種馬所などを前身としています。昭和21年には、乳用牛、肉用牛、豚、鶏、馬、めん羊、山羊などの改良増殖、飼料作物種子の増殖などを実施する種畜(繁殖または品種改良のために飼育される家畜)牧場となりました。また、家畜の記録や能力などの様々なデータの公表や、家畜改良方法の検討、実践技術の開発と実証も行い、平成13年から独立行政法人に移行し、現在に至っています。
 
  センターは福島県に本所があり、さらに北海道から九州まで全国に11箇所の牧場・支場があります。各牧場は畜種ごとの改良手法や疾病リスクにも配慮して役割分担しており、うまく連携しながら業務を進めています。現在でも、先に述べた種畜の改良と生産などを行っています。これらはいわゆる「モノ」を造るものであり、生産された家畜などは民間事業体や都道府県等に供給されるため、一般的にはあまり知られていませんが、専門家からは高い評価を得ています。
 
 一方、それらに加えて、センターにおいて重要性を増しているのが畜産に関する様々な技術・評価・情報などを提供するソフト部分です。牛の個体識別情報、いわゆる牛のトレーサビリティはよく知られているところですが、他にも牛の個体識別情報に関する統計データや遺伝的能力データなどを提供しています。さらに、多くの家畜・家禽(かきん)を飼育しているセンターならではの様々な実践的技術成果を産み出し、産業界や学会からも高い評価を受けています。
 

まずは、牛の関連について主要な成果のご紹介をお願いします。

 肉用牛では特定の血統に集中しないように遺伝的な多様性を確保していく必要がありますが、センターではこれも考慮した肉用種雄牛を作出(さくしゅつ)し、現在多くの方々に利用していただいております。また現在、脂肪交雑(サシ)の次の肉質改良としては脂肪の質が注目されていますが、これについてもその意義や評価方法、さらには改良手法において重要な役割を果たしています。また、畜産物輸出において大切な外国人の和牛肉の嗜好性の調査も行い、成果を得ています。
 
  さらに繁殖雌牛に対する代謝プロファイル法という技術を考案しました。これは肉用牛の栄養や生理的状態をモニターし、改善することによって、繁殖成績を向上させるという技術です。近年問題となっている肉用牛の繁殖成績の低下が飼養管理によって、ここまで改善できるものなのかと産官学の関係者から注目され、実用化段階に移っています。
 
 乳用牛では世界的基準で改良が行われていますが、センターはゲノミック評価(※1)などにおいて国内で大切な役割を果たしています。また牛の採卵や受精卵移植などの繁殖技術も高く、都道府県など多くの職員に研修を通じて技術伝達しています。
 
(※1)血統情報を用いた従来の遺伝的評価に、DNA情報の一部を加えて評価するもの。従来よりも高い精度と早い段階での優良家畜の選定が可能となる。
 

肉用牛、乳用牛以外については、どうでしょうか。

  豚では肉質においてトップクラスの種雄豚(しゅゆうとん)の作出に成功しています。昨年度はこの種豚と我々のアミノ酸バランス法(※2)を用いた生産者の銘柄豚が全国銘柄豚食べ比べコンテストで最優秀賞をとりました。また一昨年は(公社)日本食肉格付協会とも連携して、豚の脂肪交雑基準を作り出し、実践利用が進んでいます。

  また現在、豚コレラが大きな問題となっていますが、その対策としても重要な受精卵の凍結保存技術の改良、さらには特別な施設や技術を必要とせず現場段階で行える非外科的な豚受精卵移植技術(※3)も実用化に向け進んでいます。肉用鶏においては地鶏の実に8割に当所の種鶏が利用されています。昨年度は、これを利用した生産者の銘柄鶏がフードアクションニッポンアワードで入賞し、数年前には岡崎牧場の兼用種(2つ以上の用途に用いられる品種)を用いた生産者の銘柄鶏が全国銘柄鶏食べ比べコンテストで最優秀を受賞しています。

  種苗生産においても、数多くの新品種の原種生産だけでなく、長野支場は、わが国で唯一の種苗における国際的な種子検査機関になっています。

(※2)脂肪交雑を上げる飼養方法で、アミノ酸の一種であるリジンの含量を適切にしてタンパク質含量を上げる方法。
(※3)雌から受精卵を採取し、これを別の雌の子宮に移植し、その腹を借りて胎児を育て分娩させる技術。

子豚

牛トレーサビリティ制度の役割、運用について教えて下さい。

 センターが行っている牛トレサビリティ・システムは、国内全ての牛の両耳に耳標(じひょう)と呼ばれるものを装着し、これに表示された個体識別番号により、牛の出生から牛肉になるまでの生産履歴情報を登録・管理するものです。販売されている全ての国産牛肉の履歴をたどることができ、牛や牛肉の追跡が可能になりました。昨年度のアクセスは3900万件を超え、海外からのアクセスも多くなっています。今後は畜産ビッグデータの基盤となり、将来さらにデータが付加されて拡大し、多くの知見を生むものと期待されています。
 
  このようにセンターは種畜などの生産だけでなく、データの収集・解析や、実践的な技術開発、さらには伝染病などの支援対策にも多くの貢献をしています。
 

貴センターで今後、注力される取り組みについてお聞かせください。

 家畜の改良は、多くの家畜を必要として、また時間がかかるものです。そういった意味では大きな方向転換はないのですが、一方で、生産者や消費者のニーズは少しずつ変化しており、世界の畜産情勢も大きく動く時があり、時には積極的なチャレンジも必要とされます。また世界で次々と発信される新たな畜産技術にも注目して、国内でどれほど実際に役立つかということも検討しなければなりません。最近、注目されているスマート農業やIoTAI(人工知能)の応用などにも対応が必要です。幸い私自身、今まで異分野産業と数々の連携を行い、成果を出してきました。例えば、超音波断層法(エコー)の豚の繁殖分野や肉質分野への応用、工業界や食品産業とのエコフィード(農場残さなどを利用して製造された家畜用飼料)における連携、光学メーカーと行った牛肉質を食肉ラインで迅速に評価できる近赤外光ファイバ法の開発、応用などがあります。センターでも搾乳ロボットやほ乳ロボットの試験などが進んでいますが、今後もこのような産官学や異分野との連携を積極的に進めたいと思っています。

鶏

貴センターにおける今後の目標や課題を教えてください。

 センターでは、技術開発力を担う独創性のある業務は少ない傾向にあり、公的研究機関とは既に連携しているものの、独創的かつ興味深い研究をしている大学などともっと連携する必要があります。昨年9月に近畿大学との連携協定を行ったのもその方策の一つでありますし、今後も大学や民間との連携を異分野も含めて積極的に行いたいと考えています。また大学との連携は実践現場での教育を通じ、畜産に興味を持ってもらうことで人材の確保にもつながると期待しています。
 
 研究成果だけでなく、技術伝達においても、センターは様々な研修を通じて貢献しています。ただしっかりと外部に発信しているマニュアル類はまだ少なく、今後内容を検討し、改訂した上で、映像情報なども含めながら、少しずつでも発信して行きたいと思います。また、産官学の諸機関で現場に詳しい畜産技術者が確実に減りつつあります。こういった場面でもセンターの技術研修やマニュアル類が役に立つでしょう。
 
 最後に、私自身、都道府県や生産団体、学会から依頼された数多くの講演とそれに伴う技術の普及を通じて、産業や人のお役に立てることによる仕事の喜びを充分に知っています。こういった喜びを多くの職員に感じていただけるようになることがセンターを活性化し、わが国の畜産にも貢献できることになると考えます。生産者や消費者の皆さんには、今後も、センターが発信する技術や種畜・種苗等のほか様々な畜産物の情報にも注目していただければ幸いです。

独立行政法人家畜改良センター 理事長 入江 正和 氏

養豚場
 昭和53年 京都大学農学部卒業
 同年 京都大学大学院入学
 昭和54年 大阪府立農林技術センター入所
 平成16年 宮崎大学農学部 畜産草地科学科 教授
 平成26年 近畿大学生物理工学部 食品安全工学科教授
 平成29年 現職
 
※本インタビューは、家畜改良センターの都合により 平成31 年3 月に書面により行ったものです。
 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196