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【外部寄稿】「地域再生と持続可能な共生社会の構築 ―農福連携SDGs―」

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最終更新日:2020年11月4日

一般財団法人日本GAP協会事務局長 荻野 宏

 「農福連携」という言葉が知られるようになって10年ぐらいが経ちました。農業、福祉のそれぞれが抱える課題をその二つを繋げることで解決しようという取組に名前が付いたのです。農業は労働力の高齢化や減少に悩んでいます。一方、障害者福祉の分野では仕事の量の確保や充実感の不足という問題を抱えています。障害者の力をもっともっと農業や関連する分野で発揮してもらえば、障害者の生活の質(QOL)の向上だけでなく農業生産力の強化にもつながるという考え方です。

 そうは言っても百の知恵や技術を集めた仕事である農業を障害のある人に出来るのだろうかと疑問に感じる方が多いのではないかと思います。しかし、先人の経験と工夫が既に一定の答えを出しているのです。浜松市で知的障害者が野菜生産に携わっている農業生産法人「京丸園」では高い生産性を実現していますし、同じく知的障害者が原料ブドウの生産からワイン醸造まで一貫して行っている足利市のココファームのワインは日本の航空会社のビジネスクラスで提供される程の高い評価を得ています。さらには奈良市の福祉法人青葉仁会は耕作放棄地の再生と地域の活力向上に力を発揮しています。

 日本各地に紹介したような先進事例は数多くあるのですが、まだまだ点的存在です。それは何故なのでしょうか。昨年6月に政府の取りまとめた「農福連携等推進ビジョン」にその理由が3つ述べられています。その一つ目が「知られていない」です。先ず農福連携による農業の経営向上に及ぼすプラス効果や農作業が障害者の身体や精神に与える好影響、賃金・工賃の向上等の実態が定量的に把握されておらず、情報発信も十分に行われてこなかったことがあります。二つ目は「踏み出しにくい」です。農福連携を始めようとしても、どこに相談すればいいのか窓口もわからないし、手順をわかりやすく整理したマニュアルや相談できる専門人材もいなかったのです。三つ目は「広がっていかない」です。これまで農福連携を支えてきたのは障害者の身近にいる人々でした。両親や通っていた特別支援学校の先生、家族会の皆さんが中心になっていたのです。農福連携が持続的に実施されるには経済活動として発展性のある取組にしていくことが必要です。また、世の中で「出番」と「居場所」に恵まれないのは障害者に限りません。農福の「福」の領域は、高齢者や生活困窮者から触法の人々まで含めて考える必要があります。農福連携を広げていくにはノウフク商品を選んで買っていただける消費者だけではなく国民各層の一層の理解と支援が不可欠なのです。

 このような3つの理由を克服して農福連携の定着と拡大を図るため、政府でも省庁の縦割りの壁を越えた対策をスタートさせています。内閣官房、農林水産省、厚生労働省、文部科学省、法務省などが「農福」の旗の下に具体策を打ち出し働きかけを始めています。また、この10月には国・地方公共団体、経済界、農林水産業団体、福祉団体等各界の関係者が参加した「農福連携等応援コンソーシアム」の初会合が開催されました。農福連携が国民的運動として永続的に展開されることを期待したいものです。


 本稿のおわりに農福連携とSDGsの関係について述べたいと思います。SDGsは2015年に国連で採択された2030年迄の国際社会共通の「持続可能な開発目標」と呼ばれるものです。日本では誰もがSDGs、SDGsと叫んでいますが、現実には包摂(ほうせつ)よりも排除が、融和よりは対立が有力ですし、世界的にも国内的にも経済格差は拡大しています。持続可能な社会とは誰もが排除されることなく迎え入れられ、すべての人が「居どころ」「やりがい」「生きがい」を持てる社会であるべきです。そうした社会に向けて農福連携は大きな一歩を踏み出す具体的な取組です。読者の皆さんのご理解とご支援を心よりお願いします。

レポ1-2

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196