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〜農業高校のいま・これから〜

【トップインタビュー】日本の農業を支える後継者の育成
〜農業高校のいま・これから〜

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最終更新日:2022年7月5日

全国農業高等学校長協会 理事長/東京都立園芸高等学校 校長 並川 直人氏に聞く

徳川3代将軍家光公が愛でていた樹齢550年以上の五葉松(都立園芸高等学校)と並川氏
徳川3代将軍家光公が愛でていた樹齢550年以上の五葉松
(都立園芸高等学校)と並川氏

 農業高校では、地域や社会の健全で持続的な発展を担う職業人を育成するための教育が展開されています。全国の農業高校が加入する全国農業高等学校長協会の理事長で、東京都立園芸高等学校 校長の並川氏に、農業教育の現状と展望について伺いました。

Q すべての都道府県に農業高校がありますが、成り立ちや現状について教えてください。

 農業科を置く高等学校(以下「農業高校」という)は、農業が基幹産業であった地域で、近隣の篤志や組合によって設立されました。
 現在、農業高校は全国に約300校あり、生徒数は約7万3千人です。これは、全国の高校生の2・4%に当たります。
 最近は、少子化で統廃合が進み、普通科と農業科を有する高校や、総合学科として農業を履修する高校もありますが、地域によって気候や生産体系が異なるため、各校で学ぶ内容や品目に特色があります。
 たとえば、現在、私が校長を務める東京都立園芸高等学校は明治41年に全国で初めて園芸を冠してスタートした学校です。当時は学区制がなかったので、全国各地から生徒が集まったそうです。

Q 農業高校ではどのようなことを学びますか。

 農業高校では普通教科の科目に加えて、農業科目を学びます(表1)。
 高校教育の現場では、令和4年度から新しい学習指導要領がスタートし、普通科では探究型科目が追加されていますが、農業高校では70年以上前からPDCAサイクルによるプロジェクト学習(注1)の基礎を学んでいるといえます。さらに、日本学校農業クラブ連盟(以下「農業クラブ」という)(注2)の活動で、全国の農業高校の生徒との交流を通して、多くの刺激と学びを得ています。また、地域と連携した活動など、アウトプットの機会が多くあります。説明するためには、自分が学んだことを反すうして、発言しなくてはなりません。高校生のうちは失敗してもよいし、試行錯誤の中で思いやりや意欲を醸成していくことが大事だと感じています。

(注1)自分の目標を明確にして課題を能動的に解決していく学習方法。Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のプロセスを繰り返すことによって、課題の解決に向かう。
(注2)農業高校生の自主的・自発的な組織である学校農業クラブの全国組織として1950年結成。毎年10月の全国大会は、「農高生の甲子園」と呼ばれ、知識と技術の成果と実力を競い合う。

表1 農業科目のカリキュラムの特徴

都立園芸高等学校食品科3 年加工コースの授業例 1 年生の授業で栽培したナスを使ってカレーパンを作る「種まき」から「ごちそうさま」までの実習
都立園芸高等学校食品科3 年加工コースの授業例
1 年生の授業で栽培したナスを使ってカレーパンを作る「種まき」から「ごちそうさま」までの実習

Q 地域に根ざした存在として、課題にどのように取り組むのでしょうか。

図 農業高校の5 つの基本方針(目指す学校像)

 地域や社会の課題解決に貢献することは、農業高校の大きな役割の一つです。全国農業高等学校長協会(以下「農業校長会」という)は、5つの基本方針を掲げ、地域や社会の未来を担う人材を育成するべく取り組んでいます(図)。全国の農業高校が、それぞれの地域や社会の課題解決に取り組み、特産品開発など地域資源の活用に大きな役割を果たしています。本校では、東京の世田谷という消費文化の中心にある立地条件を生かして、校内で栽培しているバラの花や柑橘の皮などを原料とした芳香蒸留水(フローラルウォーター)の製造で地元企業とコラボレーションしましたし、静岡県下田農場産のかんきつを使用したマーマレードジャムも販売しています。
 また、地方の農業高校では、卒業後に地域に残る生徒が多く、地域活性化の大きな源となっています。

Q 厳しい自然環境を相手にすることは、人格形成にも良い影響を与えそうですね。

 同じ気象条件は二度とありません。毎日が一期一会の連続です。
 厳しい自然環境を前に生徒たちは日々、柔軟な対応が求められています。生徒が生き物を相手に、会話するような気持ちで大切に育てていけば、必ず返ってくるものがあります。また、作物や生き物を育てる、食品を作るなど、結果を確認しやすい実習は、学習の励みになります。さらに、実習場面では、必ずグループで計画を立てて当番を決め、協働して取り組むので、授業を通じて社会性や豊かな人間性が育まれていきます。夏の暑い時期の実習や休みなく動物の面倒を見るといった中で、忍耐力も付きますね。多感な時期に農業高校で学ぶことは、生徒の情操に働きかけ、その後の進路の可能性を広げると信じています。

Q 伝統を大切にしつつ、スマート農業にも挑戦しているそうですね。

表2 スマート農業技術導入の実績(都立園芸高等学校)

IoT センサーにはソーラーで得られる電力を使っています
IoT センサーにはソーラーで得られる電力を使っています

 私は「農業教育の不易と流行」と言っていますが、「不易」としては、例えば本校には、徳川3代将軍家光公が愛でていた樹齢550年以上の五葉松や日米友好ハナミズキの最後の原木があります。また、現在の梨の主要品種である幸水のルーツが開発されたのは、本校です。
 そういった歴史的な教育財産を大切にしながら、基礎・基本を学び、一方では「流行」として時代に合ったスマート農業技術などに関する先端的な学習の機会を与えられるよう、環境を整えています。
 これからの農業現場では、勘や経験に頼るのでなく、ビッグデータを活用したデータサイエンスによる栽培管理や収量予測が一般的になってくるはずです。本校では、「スマートアグリスクール構想」として、外部の専門人材も活用しながら、複数のスマート農業技術を導入して、メインキャンパスや農場をつなぎ、授業に活用する取り組みを展開しています(表2)。
 また、本校は、東京都のデジタルリーディングハイスクールに指定(令和4〜5年度)され、ソーラーシェアリング(注3)に関するプロジェクト研究も始めました。民間団体と協働して、太陽光パネル下でのトウモロコシの栽培やミツバチの利用、発電した電気の農業機器への利用など環境配慮型農業教育を進めていきます。
 生徒たちの各種記録管理もデジタル化しています。これまで、各々の手帳に観測結果などをメモしていましたが、デジタルで記録することによって、データの共有や集計、分析も容易になりました。教員と生徒が、アプリケーションを通じて、データを見ながらコミュニケーションも取れます。
 新しい学習指導要領が始まって、農業と情報という科目もできました。生徒たちの方がむしろ、スマートデバイスを使いこなしています。時代に合わせた技術を学習に取り入れていくことが、農業教育の価値創造につながります。

(注3)農地に支柱を立てて上部空間に太陽光発電設備を設置し、太陽光を農業生産と発電とで共有する取り組み。作物の販売収入に加え、売電による継続的な収入や発電電力の自家利用などによる農業経営の改善が期待されている。

Q GAPやHACCPにも取り組まれていますね。

 前任校では、私自身がJGAP指導員の資格を得て、全学科の実習助手にレクチャーして学習に取り入れました。農機具や農薬は一元管理すれば、無駄な費用を抑えながら本当に必要な資材を仕入れられます。GAP(注4)の理念に基づき、生徒自らどこにリスクがあるかを評価し、農場の安全管理について授業を通して学びます。
 食品科では、HACCP(注5)に基づき、どこに異物混入のリスクがあるかお互いに確認し、自分たちが製造した食品にどのような成分表示を行うべきかについて、企業や大学・専門学校とも連携して本物に触れながら学習します。
 生きていく上でリスクは付きものですから、GAPやHACCPは工程管理学習であるとともに人材教育に役立つものであり、生徒の将来に活きていくと信じています。

(注4)食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証で、JGAPは農林水産省が導入を推奨する農業生産工程管理手法の一つ。
(注5)国際的に基本とされている食品安全の管理手法で、生産から消費までの全ての過程について健康危害の要因を分析し、そのポイントを重点的に管理する手法。平成30年6月、食品衛生法の一部が改正され、全ての食品等事業者に「HACCPに沿った衛生管理」が制度化された。

GAP に基づき管理された倉庫(左)、東京2020 オリンピック・パラリンピック競技大会では、 45 校の農業高校生が栽培・飼育しGAP 認証を受けた 米、野菜、果物、牛肉、豚肉などが選手村の食材とし て提供された。写真は、JGAP 認証トマトを出荷した都 立園芸高等学校に贈られた感謝状。(右)

Q 農業関連産業の後継者育成戦略を教えてください。

 意外かもしれませんが、現在、農業高校の生徒の約6割が女子生徒です。アシスト機能を搭載した機器やリモートで観測できるアプリケーションなどの導入で、女性が働きやすい環境も整ってきました。スマート農業技術の進展は、確実に就農へのチャンスを広げています。
 農業の産業としてのすそ野は広く、農業高校生の将来は就農に留まりません。そのため、川上から川下まで、全ての場面で学習する機会を設けていくことが重要です。最近は四年制大学への進学が増えています。卒業生が就農するとは限りませんが、農業高校での経験は必ず人生に活きるものと考えています。
 一方で、農業校長会が力を入れているのが、農業高校教員の育成です。現在、農業の教職課程のある大学にリーフレットを配布し農業高校の魅力を伝えるとともに、高校生にも農業高校教員という職業も意識してもらえるように、取り組んでいます。
 個性を尊重した教育を求めて通信制高校を選択する生徒も増えてる中、生徒一人一人に応じた個別最適化学習という共通項で農業高校こそが通信制高校のライバルではないかと感じています。これだけ動いている時代だからこそ、最適解も常に動いています。今後も、生徒が輝く農業教育を推進し、新時代に活躍できる若者の育成を図ってまいります。

並川 直人氏 全国農業高等学校長協会 理事長 東京都立園芸高等学校 校長  1986年 都立瑞穂農芸高等学校教諭として教職をスタート 2014年 都立農産高等学校 校長     全国高等学校給食研究協議会会長 2018年 日本学校農業クラブ連盟代表 2019年 都立園芸高等学校 校長 2021年 全国農業高等学校長協会 理事長  ※本インタビューは、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を講じた上で、令和4年5月19日に都立園芸高等学校にて実施しました。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196