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【トップインタビュー】今こそ心がけたい防災備蓄

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最終更新日:2022年9月5日

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所
国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室 室長 笠岡(坪山)宜代 氏に聞く

笠岡(坪山)宜代 氏

 毎年9月1日は「防災の日」、この日を含む1週間は「防災週間」です。わが国は、自然災害によるリスクが高い国であり、また、昨今のコロナ禍や世界情勢を踏まえ、食料備蓄の重要性が増しています。災害に伴う栄養格差を縮小させ、健康被害を減らすための調査研究やエビデンスに基づいた後方支援を行っている国際災害栄養研究室の笠岡(坪山)室長に、防災備蓄のポイントなどについて伺いました。

Q 国際災害栄養研究室が設立された経緯について、教えてください。

 本研究室が属する国立健康・栄養研究所は、1920年に設置された世界最古の国立栄養研究所です。日本で唯一「栄養」を冠した当研究所のルーツは、所管する厚生労働省の当初の前身組織よりも古く、私たち研究者は、栄養学が日本から生まれた学問だという誇りを持って、食事の摂取基準や運動基準の策定エビデンスなどを担っています。
 大きなきっかけとなったのは、東日本大震災でした。被災地に派遣された当時、避難所のあまりの食事状況に涙が止まりませんでした。この状況を改善したいという思いから、研究の方向性を、災害と栄養にシフトしました。その後も熊本地震や西日本豪雨など度重なる大規模災害を経る中、災害と栄養に関するデータ不足を痛感し、情報発信がいかに重要かを訴えた結果、2018年4月に、政府関連機関として世界初の災害と栄養を専門とする部署として本研究室が開設されました。

Q ミッションや活動内容について、教えてください。

 本研究室は、「エビデンスtoアクション」をスローガンに掲げています。
 災害時の栄養問題について調査・研究を行い、研究で得たエビデンス(根拠)をガイドラインや政策提言に反映して、次の災害に備えるアクション(行動)につなげていくことを目指しています。アクションとしては、実際に被災地に赴くほかに、国や自治体および栄養士などの派遣チームに対する後方支援があり、その中で見えた新たな課題について、次の研究につなげるというサイクルで活動しています。
 災害現場に関わる情報は、厚生労働省や複数の省庁、さまざまな団体から収集します。私たちは、これらをリアルタイムで分析し、食事が不足している避難所や病院、要配慮者(乳幼児、高齢者、妊産授乳婦、食物アレルギーや慢性疾患を患っている方など)の避難状況などを割り出し、被災地に返して対処方法を示します。行政の期待もあって、最近は速やかに支援要請がありますので、これらの支援活動にも注力しています(表)。
 また、これらのノウハウを基に、平時の情報提供も行っています。災害時の栄養や食生活の基本などをまとめたリーフレットは、日本語のほか6か国語対応でホームページに掲載しています。

表 国際災害栄養研究室の支援活動例

Q 災害時の食事には、どのような栄養問題が生じやすいのでしょうか。

 災害時の食事には「量」と「質」の問題があります。初期段階では全体的に食事が不足しがちですが、食事が届くようになっても、おにぎり、菓子パン、カップ麺などの炭水化物に偏ってしまうといった問題が生じます。
 東日本大震災の避難所(沿岸部の約70カ所)について、食事状態を調査したところ、全体的に食事が不足していた中でも、おにぎりやパンなどの穀類は過剰という避難所が25%もありました(図1)。その他の食品、特に、乳製品や肉類のほか、野菜類、豆類、魚介類などのおかずが圧倒的に不足していたのです。
 要配慮者にあっては、避難生活が長引くほど、柔らかく飲み込みやすい食事やアレルギー対応食など個別の支援ニーズが高まります。

図1 東日本大震災での避難所における食事状況

Q 家庭での防災備蓄のポイントについて、教えてください。

 私は、農林水産省発行の「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」の全体指導に携わりましたが、一般の方も要配慮者も、押さえていただきたいのは、上の基本の4点セットです。水やエネルギー源の主食はもちろん、不足しがちなおかず(主菜・副菜)、熱源を忘れずに備蓄してください。
 なお、東日本大震災での物流機能停止などの経験から、備蓄量はできれば1週間分と推奨されています。避難生活が長引くほど、高血圧になりやすく血糖値も悪化しますが、要配慮者向けの食品は届くまでに何週間もかかることがあるので、要配慮者がいる場合は2週間分の備蓄をおすすめします。
 カセットコンロも、ぜひ備えていただきたいアイテムです。野菜など生鮮品を調理できた避難所では、おかずのバリエーションが増えて食事の質が良くなるという調査結果もあります。避難先の校庭で自らトマトやなすなどを育てて調理し、栄養改善している避難所も目にしました。これには、避難者同士の輪と温かな食事の力を感じました。
 
(1) 水
  飲料水は1人当たり1L/日
  調理などに使用する水を含めると、同3L/日程度あれば安心
(2) 主食【エネルギーの確保】
  精米、レトルトご飯、乾麺、カップ麺、小麦粉、シリアル類など
(3) おかず(主菜・副菜)【たんぱく質の確保、ビタミン、ミネラル、食物繊維の補充】
  缶詰、レトルト食品、フリーズドライ食品、乾物、日持ちする野菜など
(4) 熱源(カセットコンロ)
  ボンベは1人当たり1週間分:6本程度

 
〈参考〉農林水産省 災害時に備えた食品ストックガイド 
    一般向け/要配慮者向け   単身者向け

Q 家庭で取り組みやすい備蓄方法を教えてください。

防災備蓄

 厚生労働省によると、災害時に備えて非常用食料を備蓄している世帯の割合は、東日本大震災が起きた2011年で47・4%、2019年も53・8%にとどまり、あまり改善されていないのが課題です。
 そこで、普段の食品を少し多めに買い置きし、消費した分を買い足していく「循環備蓄(ローリングストック)」が、一定の食料を備蓄することができ、おすすめです。家庭では、長期保存できる高価な災害食よりも、普段の家計費から少し多めに購入した食品を備蓄に回す方が、取り組んでいただきやすいと思います。また、災害時には、海外からの支援物資なども貴重な食料ではありますが、ストレスで食欲が落ちている時には、パッケージに外国語が並んだ見慣れない食品よりも、普段食べ慣れているものの方が、安心して手を伸ばせます。

Q 防災備蓄の促進や災害食の普及のために、どのような取り組みが行われていますか。

図 2 「 日本災害食」と「おもいやり災害食」のロゴマーク

 日本災害食学会では、「日本災害食」の認証制度を実施しています。2022年8月現在で200食以上が認証され、対象商品にはロゴマークが付いています(図2・左)。最近は、湯や水を入れると食べられるアルファ化米やパスタ、温かい食事が食べられるよう発熱剤が入ったパック、離乳食やミルクなど、バラエティーに富んだ商品が認証され、販売されています。何を備えたらよいか分からないという方も、このマークを目安に購入いただければ幸いです。
 本認証は、商品選択の参考にしていただくとともに、健康二次災害の発生防止も目的としています。東日本大震災以降、災害食ビジネスが盛んとなり、衛生管理が不十分な商品も出回りました。2017年には防災訓練で大規模な食中毒が発生しましたが、災害食は、生き延びた命をつなぐための食事ですから、絶対にあってはならないことです。特に行政や施設では、認証済商品を積極的に備えていただきたいです。
 認証済商品のうち、要配慮者向け商品を「おもいやり災害食」として認証する制度も始まっています(図2・右)。このロゴマークによって、災害時にも対応商品を区別して配布することができます。

Q  今後の展開について、教えてください。

 災害食の認証制度は、世界で類を見ない日本独自の制度です。これを国際基準にしていくために、2021年9月に災害食ISO委員会が立ち上げられました。さらに、災害時には食料のみならず、食料が避難者に届くまでの仕組みも重要です。災害時の栄養基準のほか、食料の備蓄方法や避難所への安定供給など災害食を取り巻く仕組みについても、パッケージで作り上げていきたいです。先駆的な日本の災害食を世界のビジネスマーケットで展開し、世界の人々を災害から救っていくことが目標です。
 実は、日本災害食の認証基準は、「宇宙日本食」の認証基準を参考に策定されています。日本災害食と宇宙日本食は、コンパクトで丈夫なパッケージ、十分な衛生管理や常温保存など、求められる性質が非常に似ています。一方で、認証商品の割合を見ると、日本災害食のほとんどが主食であるのに対し、宇宙日本食は比較的バランスが取れています(図3)。
 そこで、日本災害食学会は2022年1月、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と連携し、宇宙日本食の認証食品について日本災害食の認証を申請された場合、両制度に共通の審査項目にあっては、審査の省略や手数料の軽減を行う運用をスタートしました。宇宙日本食が日本災害食としても認証され、商品数が増えることを期待しています。
 災害食は、どこか義務的でネガティブな印象を持たれがちですが、宇宙食と同じだと言われたら、何だかワクワクして食べてみたくなりますよね。宇宙のエッセンスを災害食に取り入れることで、食料備蓄や企業の参入を働きかけていきたいです。

図3 日本災害食と宇宙日本食 認証商品の違いと「宇宙日本食」のロゴマーク 宇宙食と災害食の連携で保管しあえる

Q 災害時の食事について、生産地との連携事例を教えてください。

 災害時には生産地との連携がとても重要と考えます。
 実は、北海道の胆振東部地震(2018年)では、栄養問題があまり生じませんでした。避難所に地元の生産者が農作物を届けた結果、炊き出しが行われ、かなり充実した食事が提供されたからです。消費者と生産者が近いことは、災害時にとても有難いと感じました。農業は本当に大切です。
 ただし、生鮮品は、適切な衛生管理が求められます。地域の生産者や関係団体と協力して、輸送や調理の環境が整えられれば、災害時の食事は、劇的に改善すると思います。

Q 読者に向けてメッセージをお願いします。

 災害時の食事の栄養改善は、生き延びるためにとても重要ですが、後回しにされがちです。
 ただ、直接死を免れて助かった命でも、長引く避難生活によって健康が損なわれ、災害関連死につながってしまうことがあります。実際、直接死よりも災害関連死のほうが多いとの報告もあるのです。災害関連死には、ストレスや睡眠不足などさまざまな要因がありますが、食生活ももちろんその一つだとされています。しっかりと食事で栄養が取れていれば、健康被害の重症化を防ぐことができます。
 また、普段から健康な食事を心がけていれば、災害に強い体ができるはずです。私たちの体は食べ物でできているのですから。ぜひ、食事を軽視せず、ご自身を守るための防災備蓄に取り組まれてください。

笠岡(坪山) 宜代 氏 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所  国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室 室長 日本災害食学会 副会長 災害食ISO委員会 委員長 2009年 国立健康・栄養研究所 国際産学連携センター国際栄養研究室 室長 2011年 同研究所 栄養疫学研究部 食事摂取基準研究室 室長 2018年より現職  ※本インタビューは、新型コロナウイルス感染防止のため、オンラインで令和4年7月14日に実施しました。

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196



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