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【寄稿】しまね流・多様な新規就農者の支援

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最終更新日:2022年10月5日

広報誌「alic」2022年10月号

島根県農林水産部農林水産総務課 農山漁村振興室 清水 恵

 島根県は、都市部を中心とした農ある暮らしへの関心の高まりを受け、県独自の「半農半X(エックス)」による就農支援を全国に先駆け平成22年から実施しています。

1 「半農半X」という働き方とは?

 「半農半X」とは、農業を営みながら他の仕事にも携わり、生活するための所得を両方から得るライフスタイルです。半農半Xは、1990年代半ばから塩見直紀氏(現 半農半X研究所代表)によって提唱されてきましたが、令和2年3月公表の「食料・農業・農村基本計画」でその実践者が多様な担い手として位置づけられるなど、農村の雇用確保や新たなビジネスの創出に向けて注目度が高まっています。

2 半農半X支援施策の概要

 支援対象の半農半X実践者となるには、各市町村で策定する「半農半X定住モデル」に照らし「半農半X実践計画」が認められる必要があります(注1)

(注1)「半農半X定住モデル」には、目標とする所得(農業部門、X部門それぞれ設定)のほか、営農類型やXの内容、技術習得方法などが定められています。「半農半X実践計画」には、半農半X実践の考え方や就農計画、住居・兼業などに関する計画が求められます。
 
半農半X支援施策の概要
【要件】
  • 県外から住民票を移動させてUIターンをしようとする者、またはUIターンして就業および就農していない段階の者。なお、UIターンしている者については、原則として住民票を移動して概ね1年以内とする。
  • 農業経営開始時の年齢が原則65歳未満であること。
  • 農産物販売金額50万円以上の目標を有すこと。
  • 就農後、5年間定住すること。
 
【メニュー】
 就農前研修経費助成事業
  就農前の研修に必要な経費などを助成
  助成額…月額12万円(最長1年間)
 定住定着助成事業
  定住開始後の営農に必要な経費などを助成
  助成額…月額12万円(最長1年間) ※夫婦の場合は同18万円
 半農半X開始支援
  農業経営を開始するために必要な機械施設整備を支援
  補助率 1/3以内 (上限事業費 300万円)

3 半農半X実践者

 これまで延べ85名が半農半X実践者として認定されています。このうち、令和4年3月末現在では76名(家族を含め130名)が県内に定住しています。出身地別にみると、近畿地方が最も多く23名、次いで関東地方が18名の順となっており、8割がIターン移住者です。
 半農半X支援策は、農業という産業振興と定住という地域振興両方の側面があります。X部分をみると「除雪」や「蔵人」など特徴的な仕事もあり、地域の活性化に寄与しています。半農半X実践者を経て、農業専業者となるケースもあります。

市町村別実践者数(令和4 年3 月末現在) (男性55 名、女性21 名)

半農半Xの類型(複数回答)

〇半農半X実践者の紹介 〜吉賀(よしか)町の河野梨恵さん〜

Q.移住や就農に至ったきっかけは?
A.東京で15年間アパレル関係の仕事に従事していましたが、平成25年に初めて観光で島根県を訪れ、島根県や農業に対する興味が増しました。その後、しまコトアカデミー(注2)を1年間受講したり、しまねUIターンフェアなどに参加したりして情報収集しました。
 
Q.吉賀町を選んだ理由は?
A.有機農業をやりたいという希望や田舎暮らしに憧れがあったからです。
 吉賀町柿木地域は、昔から自給自足、少量多品目を実践する有機農業の町だったので選びました。自分の考えにぴったりの地域でした。

Q.農業技術はどのように学んだのですか?
A.平成30年5月から翌年4月まで、(公財)ふるさと島根定住財団が実施する「UIターンしまね産業体験事業」(注3)を活用し、町内の農家にお世話になりました。栽培技術だけでなく、地域全般についても教えてもらいましたし、農地のあっせんや農機具の貸与などでもサポートいただきました。吉賀町で開講されている有機農業塾にも参加しています。

Q.経営概要を教えてください。
A.令和元年5月にパセリやししとうをメインに少量多品目野菜を栽培する計画(X部分は配送業務)で就農しました。翌年、既に就農していた夫と結婚し、現在は家族で経営する「かわの農園」にて、約60種類の野菜と水稲、しいたけ・きくらげを栽培し、農業専業となりました。X部分の配送業務は、人員不足のときに対応しています。
 
Q.今後の抱負を教えてください。
A.吉賀町での暮らしや自らが栽培した農産物の様子などについて、日本の多くの方にSNSを通じて伝えていきたいです。

(注2)島根県が雑誌「ソトコト」とコラボレーションして平成24年に東京で開講した講座。
(注3)UIターン者が農業などの産業を体験する場合に滞在に要する経費の一部を助成する制度。

4 多様な担い手の確保に向けて

 本県で半農半Xが広く普及した理由としては、(1)古くから中国山地を中心に小農と養蚕などの関連産業とを合わせた多業型の生活の素地があったこと、(2)半農半Xを実践する前に、UIターンしまね産業体験を活用した“お試し居住”のステップを踏めることが大きいと言えます。半農半X実践者の約7割が、同産業体験を経て就農しています。
 本県は令和2年、5か年における重点的な取り組みを定めた「島根県農林水産基本計画」を策定し、重点推進事項の一つに「地域が必要とする多様な担い手の確保・育成」を位置づけています。認定農業者などの中核的経営体とともに、半農半X実践者や定年帰農者などの多様な担い手にもしっかりとスポットライトを当て、各地域での営農継続・農地維持に向けた人材の確保や育成への支援を展開しています。

バジルを摘む河野梨恵さん 毎日、畑に出かけ外で働くことは健康的です。 自分で育てた新鮮な農産物が食卓に上りますし、憧れていた生活に満足しています。  【お問い合わせ先】 島根県農林水産総務課   ?0852-22-5396 (公財)しまね農業振興公社 0852-20-2872

このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196