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【第一線から】島の未来のために〜久米島の肉用子牛生産を支える人〜

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最終更新日:2020年1月8日

 久米島は沖縄本島の西方100kmにあり、沖縄諸島で最西の島です。主な産業は農業ですが、中でも繁殖雌牛を飼養して生まれた「肉用子牛」の生産が農業生産額の約35%を占め、さとうきび生産とともに主要な部門となっています。また、生産者の60%は40代であり、若い世代が中心となって島の肉用子牛生産を支えています。今回はそのような久米島の肉用子牛生産の第一線で活躍されている高良吉浩(たからよしひろ)さんをご紹介します。
 

久米島で肉用子牛を生産する高良さん

就農のきっかけ

久米島で肉用子牛を生産する高良さん
久米島で肉用子牛を生産する高良さん

 高良さんは沖縄県内の農業大学校を卒業後、平成13年から肉用子牛の生産を始めました。ご両親は久米島でさとうきび農家を営んでいますが、叔父さんが牛を飼養していたことがきっかけで肉用子牛生産に興味を持ち、生産農家としての挑戦が始まりました。

就農当初の苦難と今なお続く試行錯誤の日々

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 高良さんは繁殖雌牛2〜3頭から肉用子牛の生産を始めましたが、就農当初は牛の飼養のノウハウもあまりなく、下痢による子牛の発育不良が起きるなど、経営が安定しない状況が続きました。また、当時は日本で初めて確認されたBSE(牛海綿状脳症)の影響により、子牛の販売価格は現在と比べて3分の1程度という非常に厳しい状況で、ご両親のさとうきび栽培の手伝いや守衛の仕事などを掛け持ちしながら、肉用子牛の生産を続けました。
 現在は約30頭の繁殖雌牛を飼養し、肉用子牛生産の専業農家として活躍する高良さんですが、今も試行錯誤の日々は続いています。昨年、生産の効率化を図るため子牛の離乳時期を早める取組みを行ったところ、抵抗力が低下し何頭か死んだこともありました。10年以上のキャリアがあっても、肉用子牛生産は簡単な仕事ではありません。

新しい牛舎から伝わる牛への想い

 昨年4月に沖縄県の畜産担い手育成総合整備事業を活用して、新しい牛舎を建設しました。牛舎にはこれまでの高良さんの経験を生かしたアイデアが細部にまで取り入れられています。例えば、転倒による骨折事故を防ぐため、床に溝を入れて牛が滑らない工夫を施したり、久米島ではあまり導入されていない扇風機を設置するなど、牛の体調管理に余念がありません。また、ラッピングした牧草を壁のように並べて風よけとして利用し、牛にかかるストレスを軽減するための工夫もしています。

ラッピングした牧草を牛舎の壁のように並べて風よけ効果に(写真左)牛のてんt

これから目指すところ

ハウス

 高良さんの今後の目標は繁殖雌牛頭数を50頭程度に増やすことですが、ひとりでの作業は現状が手一杯のため、規模拡大に併せて人材の確保も考えています。そのためには機械化なども必要不可欠ですが、「すべて機械に任せるのではなく、牛の状態の見極めはできる限り人間の眼で行いたい」とも考えています。また、子牛の質の向上についても研究熱心で、県外から優良な血統の繁殖雌牛を導入するなど血統面での改良にも取り組んでおり、質・量の両面からの繁殖成績の向上を目指しています。

島の肉用子牛生産のために

 高良さんには、自らの経営にとどまらず、久米島全体の肉用子牛生産を活性化させたいという想いがあります。生産された子牛の多くは島内の家畜市場で販売されますが、一定の上場頭数に達しないため、市場の開催は隔月です。その結果、生産者が子牛を出荷したいタイミングと市場の開催時期が合わないケースもあるそうです。「生産頭数が増えれば、市場を毎月開催することができ、久米島の肉用子牛生産者の経営安定につながる」と話す高良さんは、今後は自身が持つ家畜人工授精師(※1)と削蹄師(※2)の資格を生かし、他の生産者のためにも積極的に活動していきたいと考えています。
 島のために何ができるか常に考えている、そうした生産者が久米島の肉用子牛生産を支えています。

(※1)家畜の雄から採取された精液を利用し、雌を妊娠させる技術者。
(※2)家畜の伸びた蹄(ひづめ)を切り、形を整える技術者。
(畜産経営対策部 肉用子牛課)
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196