消費者コーナー 「食」の安全・安心や食育に関する情報、料理レシピなど

ホーム > 消費者コーナー > 広報誌 > 【トップインタビュー】食品ロスの削減にも寄与するフードバンクの展開〜新しいセーフティネットを目指して〜

【トップインタビュー】食品ロスの削減にも寄与するフードバンクの展開〜新しいセーフティネットを目指して〜

印刷ページ

最終更新日:2019年9月4日

認定NPO法人 フードバンクふじのくに 池富 彰 氏 に聞く

 静岡県静岡市のNPO法人フードバンクふじのくには、行政機関や食品事業者等との連携により、余っている食品を活用して生活に困窮する方々への食料支援を行うという地域社会にとって重要な活動を展開している。同法人の池冨 彰副理事長(一般社団法人静岡県労働者福祉協議会理事長)に、食品ロスの削減にも寄与するフードバンクの取組みなどについてお話を伺いました。
 

貴法人で行っておられるフードバンク活動とは、どのようなものでしょうか。

認定NPO法人フードバンクふじのくに 副理事長 池冨 彰 氏
認定NPO法人フードバンクふじのくに 副理事長 池冨 彰 氏
 品質的には問題なく食べられるものの、そのままでは無駄に捨てられてしまうことになる食料(賞味期限が迫ったり包装が破損したりしている商品たる食品や、在庫の入替えに伴い放出される災害備蓄用の食品等)を、企業・自治体や個人から無償で提供いただき、それを生活に困っている方々に届けることにより有効活用するボランティア活動です。
 2014年からフードバンクとしての活動をスタートさせ、当初は連携する自治体も静岡県内の一部のみでしたが、2016年には県内全ての自治体と連携する体制が整いました。2017年には静岡市から認定NPO法人としての認定(※1)を受け、現在に至っています。

(※1)特定非営利活動促進法に基づき、公益の増進に資するNPO(特定非営利活動法人)について都道府県知事又は政令指定市の長が行う認定。認定を受けたNPO及びこれに寄付を行う者には、税制上の優遇措置が与えられる。

フードバンクを始められたきっかけを教えてください。

 2009年に県労働者福祉協議会が事務局となり、県生活協同組合連合会や連合静岡等の団体で構成するフードバンク設立のための検討委員会を立ち上げました。生活困窮者への支援と食品ロスの削減を同時に実現できることに加え、特に大規模地震への備えに力を入れてきた静岡県では災害用備蓄の在庫処理も大きな関心事であることから、地域に根ざした顔の見える活動として、新たにフードバンク設立を目指すこととしたものです。特に、検討委員会の構成団体がカバーする勤労者や生活協同組合の加入者は、県内人口の3分の2を占めており、広範に浸透することが期待されました。
 設立に向けて活動内容の議論を進める中では、元々生活困窮者の支援活動をしていたNPO法人のPOPOLO(現在の「フードバンクふじのくに」の構成団体の一つ)が、2012年に富士市で試行を開始した食料支援のノウハウも取り入れて、しっかりしたものに作り上げていきました。
 こうして設立された「フードバンクふじのくに」は、県内の関係機関・団体によるコンソーシアム型(※2)の形態であることが特徴です。日本全国にあるフードバンクの中でも、こうした活動形態をとっている例は少ないと承知しています。

(※2)コンソーシアムとは、この場合、複数の団体・企業等の共同により、共通の目的に沿った活動を行うための連合体を意味する。

コンソーシアム型のメリットは何でしょうか。

子豚
 まず、フードバンク活動について幅広く認知してもらい、賛同を得ることができる点が大きなポイントです。また、運営に当たっては、特定の団体のみで主導するのではなく、構成団体がそれぞれの立場で、お互いの考え方を尊重しながら足りないところを補い合うことができるのがコンソーシアムのメリットです。
 こうした活動方針・形態により運営を行うことを通じ、広く賛同を得て、地域に役立ち、地域から頼りにされる存在になることができたと思います。その結果、静岡県の35市町全てと連携協定を結び、県内全域をカバーできるようになりました。
 

食料支援の計画、食品の保存管理や配送はどうされていますか。

 行政、社会福祉協議会、支援団体等の相談機関を訪れた相談者に対して食料支援が必要であると判断された場合、相談機関から当法人に支援依頼が届きます。依頼は書面で行われ、希望する支援期間や家族構成・世帯人数、アレルギーの有無といった情報が記載されており、その情報を元に倉庫に常時10トン程度保管している賞味期限1か月以上の食品の中から相談者の生活状況に合わせた食品を選択し、箱詰め作業を行って当法人から相談機関へ届け、生活に困窮している方には、相談機関から食品を配布することになります。届ける際は、転売しない、賞味期限内に使用する等の利用規約を付した配達記録書を発行し、万一食品に問題があった場合にも追跡ができる体制にしています。
 食品の入手については、生活協同組合を含む食品の製造・販売事業者からの商品や行政機関からの災害備蓄在庫の寄贈のほか、個人からの寄贈も受けています。一般の家庭で余っている食品の寄付を募る取組み(フードドライブ)も実施しており、当法人としては2018年冬季フードドライブでは全国最多の県内231カ所で行いました。県民の多くの方は、スーパーの店頭や公共施設等に設置された回収ボックスを良く知っておられると思います。
 寄贈された食品については、必ず品質及び賞味期限のチェックを行います。また、食品を提供する立場からの責務として、生産物賠償責任(PL)保険に加入するなどリスクへの備えも行うようにしています。
 
えがみ

生活困窮者対策におけるフードバンクの位置づけや意義について教えてください。

 2015年に生活困窮者自立支援法(※3) が制定され、生活資金の貸付けや就労支援、子の教育支援等の対策が講じられることとなりました。これにより、生活保護の受給に至る手前での生活困窮者への支援の重要性が強調されることとなりましたが、同法に基づく支援メニューの中には、食料などの現物支援は含まれませんでした。
 生活困窮の原因は、病気や怪我で働けなくなった、また夫婦・家族の離婚・離別等多種多様です。フードバンクを通じてこうした方々へのお手伝いを始めてから認識できたのは、当事者は周りに助けを求められず、我慢しているということです。つまり、生活保護による公助を自ら進んで受けられる方は本当に困っている方たちで、多くの生活困窮者の方は世間体もあってまだ頑張れると考えてしまうとともに、自分を責め、誰にも相談できずに一人で悩んでいるケースが多いことが分かりました。

 フードバンク活動によって現物の食料支援を行うことの意義は、届けた食料を食してもらうことだけではありません。行政機関や支援団体から食料を届ける際に対面で直接接触する機会ができることで、他に何か困っていてお手伝いすることないか、相談に乗れることがないかを聞き出すことができるのが利点だと思っています。まだ食べられる、余った食品を必要とする方に届けることは、すなわち支援の食料を受け取る側にも食べ物を無駄にしないために協力してもらっているという考え方にたって、相手と信頼関係を形成することが重要です。そのような形で、生活に困っている方の信頼を得て本人の状況を把握し、必要に応じ、生活保護や資金の貸し付け等の支援を受けられるよう市役所や社会福祉協議会の支援窓口を紹介して相談に行ってもらえれば、私たちとして後方支援ができたこととなります。

(※3) 生活困窮者に対する、生活保護に至る前の各般の自立支援策(セーフティネット)の強化を図るための立法。
 

本年5月の「食品ロス削減推進法」の成立を受け、フードバンク活動に、どのような環境変化が期待されますか。

 フードバンク活動において、生活困窮者への支援のみならず食品ロスの削減も重要なテーマとして捉えています。この両者の問題を結びつけながら同時に解決していくため、当法人は設立されたと思っています。もちろん、個々の構成団体の中でみれば、例えば社会福祉協議会であれば生活困窮者対策に、生活協同組合であれば食品ロス削減に、より重点を置いている面はあるかも知れません。しかし、当法人全体としては両者を対等の目的と位置づけておりますし、それによって困っている人が助かるのは紛れもない事実です。
 世間一般の関心を惹きつける契機として、法律の成立は私たちにとって追い風となると考えていますし、実際に最近は大手食品企業の本社から当法人の活動の視察に来訪する方が増えてきています。昨年、フードバンクに対する食品の寄贈について税法上の損金算入を認める国税庁の見解が示されたことと相まって、食品企業からの協力を得られる範囲が広がっていくことが期待されます。
 

今後の方向性や、課題について教えてください。

 向こう三軒両隣でお互いに「米貸して」「しょうゆ貸して」というような、50〜60年前には存在した地域のコミュニティーによる支え合い、困った時はお互いさまの関係を作り上げることが私たちの目指す姿です。フードバンクが負うべき役割は、誰もが生活に困窮することがあり得るとの認識のもと、食料支援を受けられる方々のニーズに寄り添うことを目指して行きたいと思います。
 課題としては、今後の活動を拡充していく上で、運営費用を十分に賄うことができるよう資金の確保を図っていかなければならないことがあります。そのためには更に賛同者からの寄付を募ることも必要と思います。
 
江上先生
(一社)静岡県労働者福祉協議会理事長
認定NPO法人フードバンクふじのくに副理事長(兼務) 
池冨 彰(いけとみ あきら)氏

昭和32年(1957年)静岡県浜松市出身  
昭和60年(1985年)鈴木自動車工業株式会社(現スズキ株式会社入社)  
平成16年(2004年)スズキ労働組合 副中央執行委員長  
平成20年(2008年)連合静岡浜松地域協議会議長  
平成22年(2010年)スズキ販売労働組合中央執行委員長  
平成25年(2013年)連合静岡会長  
平成29年(2017年)(一社)静岡県労働者福祉協議会理事長  
平成30年(2018年)認定NPO法人フードバンクふじのくに副理事長(兼務)  

 
このページに掲載されている情報の発信元
農畜産業振興機構 企画調整部 (担当:広報消費者課)
Tel:03-3583-8196